PRINCESS SWORD―姫のツルギは恋を貫く―
「いや……その、ほかに、アドレスは?」
「わたしはこれだけですよ。恥ずかしいんですけど、機械の操作は本当に苦手で、スマホもパソコンも全然うまく使えなくて、
子どものころに祖母から叩き込んでもらったメールとアドレス帳の使い方しかわかってないんです」
「そうか。なら、別にいい」
煥先輩は下唇を噛み締めた。
その唇はすごく柔らかかった。
傷が付くようなことをしてほしくない。
「あっ……」
思い出してしまった。
煥先輩とキスをしたこと。抱きしめられたこと。
煥先輩が口移しで痛みを受け取ってくれたから、わたしが救われたこと。
自分が信じられない。
ファーストキスという大事件を、状況が状況とはいえ、今まで忘れていたなんて。