PRINCESS SWORD―姫のツルギは恋を貫く―
曲がサビに差し掛かる。
この胸の泥の奥の底
その声をあげたのは何だ?
僕の押し殺した息
僕が忘れたふりの僕
僕にようやく聞こえた
青い……
いきなり、煥先輩の声が止まった。
異変に気付いて、演奏が止まる。
「おい、煥? どうした?」
煥先輩は呆然と目を見開いていた。
口元を、大きな手のひらで覆っている。
小夜子が立ち上がった。
蹴られて倒れそうな椅子を、わたしが支える。
誰も何も言わない。
固唾《かたず》を呑んで煥先輩を見つめる。
やがて、煥先輩は長いまつげを伏せた。
「悪ぃ。歌えねえ」
青い月よ 消えないで
この胸の叫びは飼い慣らせないから
曲の中でもいちばん印象的なフレーズ。
「青い月」と歌う響きが美しい箇所だ。