フェアリーサイン
「さ……最悪」
あたしは、目の前に広がる光景に落胆した。
ガラクタの山の部屋。ヒビの入った窓ガラス。埃たっぷり被った蛍光灯。暑くて臭い。
なぜ、あたしがこんな場所にいるのかを説明すると、大分前に遡らなければならない。
全ての事の発端は現在(いま)から四日前の出来事。
8月25日(火曜日)
街路樹に止まった蝉の声、陽炎、揺らぐアスファルト。
ジリジリ照りつける太陽。外は、まるで灼熱の砂漠。どうやら、本日は今年、最高の猛暑日らしい。
けど、そんな暑さあたしには関係ない。
クーラーでガンガンに冷やした室内は、絶対、外とは十度くらい温度差があるだろう。
赤いソファーの上で薄手のタオルケットに包まり、アイスキャンディをくわえながら、音楽を流しゲーム機をいじるあたし。
結局、長い夏休みはこうして、グダグダ過ごすのが何よりの贅沢で最高のバカンスだ。
しみじみ思う。
それと、同時に自分腐ってるなと改めて感じる。
でも、良いじゃん。別に。腐ってますけど、なにか? あたしは、こうして開き直ってしまう。
分かってるよ、虚しい事くらい。
でも、何かと都合が良いんです。そして、これからもたくさん使用するだろう。
あぁ、ホントにダメ人間だ。あたし。救いようがないくらい、ね。
そんな事より貴重なバカンスも残り一週間に差し掛かってしまった。
大切な大切なバカンス。
慎重に大事に過ごそうと思っていた。
そう思っていたのに……、
--プルルル
「はい、市川(いちかわ)デザイン事務所です。えっ? 父さんが……」
……残念な事に、あたしのおじいちゃんが死んでしまったのだ。
それも、大切な夏休みの日に……。