フェアリーサイン
「あー……、疲れた……。お葬式って疲れるもんね?」
ママは椅子に崩れる様に座って、アイピローを目に当てていた。
なんだかんだでおじいちゃんの葬儀に4日も使ってしまったのだ。
つまり、もう8月29日(土曜日)
あたしの貴重なバカンスは残り3日しかない。
これは、かなり勿体ない。もし、訴えてこの4日分、返却して頂けるのなら、裁判でもどこでも駆け付けようじゃないか。
けど、人生そんなに甘くないって分かってる。
分かってる、無駄な抵抗だと。
「……ねー、莉音(りお)、あんた暇でしょ? どーせ。なら、私の代わりに今からおじいちゃんの店片付けてきてよ……」
ママは、アイピローを目に乗せて、だらしなく口を空けてあたしに言った。その口調に、生気はない。
どうやら、燃え尽きてしまった様だ。ママは、自分の父親の葬儀の為に4日間も仕事を休んでしまったのだ。
その休んだ分、仕事が山積みなのだろう。
確かに、そこは大変だと労って(ねぎらって)労って(いたわって)あげたい。娘として。もちろん。
けれど、あたしは拒んだ。
でも、それには、拒む理由がちゃんとある。
宿題。残ってるんだもん。
申し訳ない事にまだ何一つ手を付けていない。
あの4日間があったら終わっていたかもしれない。
残り3日。終わる自信がない。いや、終わるワケがない。だって、やる気がないんだから。