フェアリーサイン



ぶっきらぼうな言い方で、あたしは磯野さんの手を払い除けた。


「そ、そ、そ、そう……? け、け、けど、か、か、化膿し無いようにちゃんと消毒した方がいいよ……」


磯野さんは吃(ども)りながら、でも優しい言葉を掛けてくれた。



なのに、あたしは、返事もしないで立ち上がりドアに向かう。






なんであたしは、こういう態度しか取れないんだろう……。




そもそも、磯野さんが転んだのだって誰かが、足を掛けたからなのに……。





それなのに、どうしてたまたまぶつかったあたしのケガの心配をするの……?






そうじゃなくてもあたし、あんなひどい事したのに……。





それなのに……。





そんな事を考えながら立ち尽くしているあたしの背後から目が覚めるような色鮮やかな音色が聞こえてきた。




振り向くとそこには磯野さんがピアノを弾いていた。

あたし、音楽に関して何の知識もないド素人。



だけど……、この音色はすごいって素直に思った。



優しい音色。





ずっと聞いていたくなる心地よさがあって心を掴まれた気がした……。
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