フェアリーサイン
クラス全員の視線に姫梨ちゃんは、動じる事なくニッコリ柔らかく笑った。
「うん、そのコンクールには参加したけど、あたしは落選しちゃったんだ。ごめんね、勘違いさせて。優勝したのは、磯野さんだよ? ね!」
姫梨ちゃんは、磯野さんに優しい口調で呼び掛けた。
「えっ………? ……あ、は、はい……でも、あれはまぐれというか……水瀬さんの音緊張してて硬くなってしまっただけでして、たまたま私がえ、え、選ばれたような物でして……じ、じ、実力的なら水瀬さんの方が断然、上でして……」
突然、話し掛けられた事に戸惑ったのか、磯野さんはあたふたしながら辺りを見渡し、立ち上がった。
「そーゆーの、ホントやめて。磯野さん」
姫梨ちゃんが冷たい口調で言い放つ。そう言い放った姫梨ちゃんの表情が声と同じくらい冷たかった。
一気に教室の空気が下がった。
あんなに、ざわついていたのに、びっくりするくらい静かになった。
「磯野さん、明日の朝礼で賞状を贈呈するから呼ばれたら壇上に来て下さい」
担任は、立ち上がったままの磯野さんにそう言った。
「あ、……はい……」
人から注目されるのが苦手な磯野さんは俯いて返事をして、静かに椅子に座った。