フェアリーサイン



じゃあ、何コレ……?



「おーい?」


茫然と立ち尽くすあたしにそれは、宙をヒラヒラ舞いながら呼び掛ける。



そして、小さい手があたしの頬に触れようとしたその瞬間。



「いやぁぁぁぁぁっっ!」



あたしは、大声で叫びソッコーでその部屋から飛び出した。






――バタンッ!

隣の部屋に逃げ込んだあたしはドアに背を付けて息を整えた。



「ハアッ、ハアッ……な、なんなの、い、今の……? 喋る虫? ……羽根付きの人間……ってクサッ!」


逃げ込んだ先はトイレだった。最悪。臭い。暑い。臭い!

出たい。今すぐ、出たい。


けど、さっきの部屋にはあの生き物がいるし……。



あたしは、少しだけドアを開けて隙間から外の様子を伺った。





「どう? なんか居た?」


「うーん、居なさそう……って……」


あたしの左上から男の子の声が降り注ぐ。


ていうか、今の声……。


あたしは、恐る恐るその声が聞こえる方に顔を動かした。



「きゃあぁぁぁ!」


思いきり悲鳴をあげて、あたしはその場所から飛び出した。


「ひどいなぁ、人の顔見て、叫んで逃げるなんて」


ふてくされた様な表情と口調を浮かべているけど、いや、普通、逃げるわ。



「……な、な、な、何なの? ……コ、コレ?」

震える指でそいつを指差す。

けど、マジで何なの? コレ? あたし、暑さのせいで頭やられた?



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