メリー*メリー
「ここだよ」


到着した我が家__ボロボロのアパートを指差して僕は言った。


「ここ、ですか」


レイの少し驚いた声に僕は頷いた。


レイが驚くのも無理はない。

一応は2階建ての、褐色に錆び付いているこのアパートは、一見すると誰も住んでいないような廃れた物置のようにも見え、なかなか人が住んでいるとは思いづらい外見なんだ。

実際、全部で6つある部屋の中で、人が住んでいるのはたった1室、僕だけ。

大家さんは、ここから5分ほど歩いた場所にある立派なお家に住んでいるおばあさん。

たまに畑で採れたという野菜をお裾分けしてくれたり、何だかんだと僕を気にかけてくれる、優しい人。

一歩踏み出す度に軋む、錆び付いた鉄の階段をなんの戸惑いもなく登る僕の後ろをついてくるレイ。

制服のポケットから鍵を取り出して、家の鍵を開ける。

ギイ、と金属の擦れる嫌な音と共に玄関の扉が開いた。


「ただいま」


僕は呟くように、吐き出すように、そう言った。

僕の言葉は家の中に吸い込まれるように小さく消える。


「狭いけど、どうぞ」


振り返ってレイを見た。


「お邪魔します」

レイは少し緊張した様子だった。


僕の住むこの部屋は、台所や風呂などの水回りの他に1部屋しかなく、こじんまりしている。

部屋の中に於いてあるものも、ベッドや机など生活に必要な最低限のものだけで、娯楽なんかはほとんどない。


「椎は一人暮らししてるんですか?」


ぐるりと部屋の中を見渡したレイは僕に尋ねた。


「そうだね」


僕は頷く。


「ご家族は別の場所に住んでおられるのですか?」


僕はその質問には答えずに微笑んで、「君はどうなのさ」と質問した。


「レイだってお母さんや、お父さんや、家族と一緒に住んでるんでしょ?」


レイは、うーん、と考え込んだ。


「私が一緒に暮らしてる人達は、家族というよりも、仲間という方が正しいです」

「仲間…? レイは寮で暮らしているの?」


レイは「そうです」首を縦に振ったので、僕は驚いた。


「えっ、じゃあ、レイは寮を抜け出してきたの?」

「そうなりますね」


レイはにっこり微笑んでいるが、笑い事じゃない。

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