メリー*メリー
「じゃあ、学校に行ってくるから」

玄関先で靴をはきながら、見送りに来てくれたレイにそう言った。

今日は部活があるため、土曜日だけど学校に行かなければならない。

こんな雪の降る日に部活なんて、と思うと溜め息が出る。

大体、冬なんだから土日に部活をする必要性はほとんどないのだけど、きっとみんな部活のみんなと話したいだけなのだろうなと思う。

まぁ、それも楽しいからいいけど。


レイは「そうですか」と羨ましそうな顔をする。


「どうしてそんな顔をするの?」


僕の問いかけにレイは眉を下げて笑いながら言った。


「椎はこれから椎のお友達に会えるんだなって思うと、いいなあって思っただけです」

「…レイは、元いた世界に友達がいたの?」


レイは笑顔で頷いた。


「たくさん、たくさんいました。みんな、いつも会う度に話しかけてくれました」


少しだけ切ないような笑顔だった。


「『今日は忘れ物してないの?』とか『今日は迷子になったらいけないよ』とか、『レイほどぼけぼけな雪の精、探しても見つからないだろうなあ』とか、それから…」

指折り数えてレイは教えてくれる、けれど。

「それ全部悪口なんじゃ…」

僕は溜め息をついた。

背中に背負ったカバンをもう一度かけ直して、「じゃあ」と声をかけた。

もう家を出ないといけない時間だ。

遅刻して部長に怒られるのはたまったもんじゃない。

僕は玄関の取っ手に手をかけて、扉を開けた。

びゅう、と冷たい風が吹き込んでくる。


「行ってきます」


一歩外に踏み出して、扉を閉めるために振り返ると僕は目を見開いた。


「行ってらっしゃい」


微笑んで、僕に手を降って。

レイは見送ってくれている。

あたたかいその笑顔は、あの人を思い起こさせて。

フラッシュバックする記憶。

あの人はあの日も、いつもと同じように優しい笑顔で、目を細めて。

『行ってらっしゃい』

どくんと心臓は大きな音で心拍した。

声が、言葉が。

痛いほど、傷口をえぐる。

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