メリー*メリー
「何かあったんじゃないの?椎くんが遅れてくるなんて、よっぽどのことがあったんじゃないの?」

僕は流れるように「何でもないよ」と笑って答えた。

ついさっきユズから嘘を吐くなと怒られたばかりだというのに、僕はこうしてまた嘘を重ねる。

きっと何度同じ場面に出合っても、何度考え直しても、きっと僕は嘘を吐く。

愚かだと自分でも思う。


「ちょっと、ユズと会って話してたらこんな時間になっていたんだ」


僕がそう付け加えると、紗由は納得したのか、ほっと安心したような顔をした。

「何かあったんじゃないかと思って、心配したんだよ」

あー良かった、と微笑む紗由に、僕は眉を下げて少し笑った。

「心配かけてごめんね」

例え紗由のこの言葉が嘘だとしても、僕は嬉しいと思うだろう。

こんな僕に上辺だけでも優しい言葉をくれたことを、それだけでも幸せなことだから。

なんてひねくれた考えをしてしまうのはきっと、心がまだ暗いからだろう。


はぁ、と僕は肺にたまった空気を吐き出した。

そろそろ気持ちを切り替えなくちゃ。

僕はカバンを置くと、花壇の方に回った。

園芸部のコーナーから少し離れたところに、部長の許しを得て僕は個人的に植物を育てている。

「良かった、元気だ」

植物の状態を確認すると、ほっと一安心だ。この寒い風の中でよくこんなに元気に育つなと感心さえ覚える。

土が乾いているなら水をやろうと思ったけど、こんなに雪が降っているので水を与える必要はないだろう。

僕はしばらく葉の緑をじっと見ていた。


「おーい、しいー!」

部長の声が聞こえる。

慌てて振り返ると、部長がわざわざ僕を呼びに来てくれた。

「あっ、すいません」

僕が謝ると、部長は「育てている植物を大切にしているのはいいことだけどさ」と溜息を吐いた。

そこで怒らない穏やかなところが園芸部らしい。

「そろそろ園芸部の活動、始めるよ」

みんなのところに戻るよ、と促されて、僕はまた園芸コーナーに戻った。
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