メリー*メリー
「あの梅の木の枝は上に真っ直ぐ伸びていて長く太いです。それに複雑に絡み合っている。

このままじゃ花が咲かなくなってしまいます」

すると部長はニッと口端を上に上げて微笑んだ。

「さっすが椎くん、正解だ」

その言葉と共に「椎くん、すごーい」と先輩方の優しい歓声が聞こえてきて、ほっと胸を撫で下ろす。

「そう言うわけで、今日の活動は、梅の木の枝を切ることと、畑の雑草を抜くこと」

以上、と部長は言った。

「それで誰が梅の枝を切るの?」

先輩の言葉に部長は少し考えるようなポーズをすると言った。

「あたしと副部長と1年生の何人かで切ろうかな。他の人は畑の雑草を抜く係りね」

オーケー?と部長が尋ねると、オーケーだとか、了解だとか、あちこちから声が聞こえ、集まっていた人はそれぞれの持ち場へとばらばら散っていく。

部長と副部長は1年生の数人を捕まえて梅の木の方へと向かった。

どうやら僕は梅の木の担当にはならないようだ。

それを判断するとゆっくりとした足取りで畑の方へ向かう。

すると後ろから「椎くん」と紗由の声が聞こえた。

「どうしたの?」と振り返ると、紗由は「あのね」と少し緊張したような面持ちで言った。

「今度の土曜日ってクリスマスでしょ?」

「あぁ…もうそんな季節だっけ」

早いな。もう一年が終わってしまうのか。

そういえば近くのスーパーや雑貨店がやけに華やいでいると思った。

そうか、クリスマスが近かったのか、それで赤色が多かったんだな、なんて納得をしていると「それでね」と紗由が話を続けた。

「椎くんは、クリスマスに予定とかってあるの?」

僕は首を横に振って笑った。

「ないよ、残念ながら」

彼女も好きな人もいない僕にとって、今度の土曜日はただの休日に他ならない。

「じゃあ、一緒に遊ぼうよ。ユズとかも誘ってさ」

いつもの僕なら即答だった。二つ返事で「行くよ」と言えた。

「うん、でも、遊べないかな」

僕はごめんね、と言った。

僕しか頼るところのないレイを放って遊びに出掛けるなんてできない。

レイのことを考えると、遊びにでたところで到底楽しむことはできないだろう。
< 24 / 95 >

この作品をシェア

pagetop