メリー*メリー
「レイ、何してるの?」

レイにまんまと丸め込まれた僕は昼過ぎから駅前アーケードを一緒に散策していた。

散策して夜まで待とうと言ったのはレイだったのに、レイはお店のショーウィンドーを見つめたまま動こうとしない。

どうしたものか、声をかけても僕の方を一向に見ることはなく、僕の声が届いているかどうかさえ分からない。

はぁ、と溜息を吐いてレイに近寄る。

レイは額をショーウィンドーのガラスにくっつけて、目を輝かせていた。

「何を見ているの?」

僕が尋ねても、レイは目をきらり、きらりと煌めかせながらじっと見っていた。

その目の見つめるものの方に僕も目を向けると、そこにいたのは小さな犬だった。

ハッとして目を上に逸らすと、そこにはポップなオレンジ色の書体で「ペットショップ」の文字が書かれていた。

「動物、好きなの?」

僕がそう尋ねると、レイは首を上下にこくん、こくんと振った。

「だって、かわいいじゃないですか!」

そう、純真無垢な笑顔でそう言ったレイに、「そうだね、可愛いね」と僕は同意した。

「はぁ、ため息が出るほど可愛いですね」

キラキラの瞳で子犬を見つめるレイ。僕は少し嫌な予感がした。

「こんなに可愛いわんちゃんがいる生活、どんなに幸せなんでしょう…」

僕は視線をレイとは反対側、右側へと向ける。なぜって、レイの視線を避けるため。

「ねえ、椎。子犬を飼いませんか!」

あぁ、予感的中。こんなことを言いだすのではないかと薄々思っていた。

「飼わないよ」

僕はきっぱりと厳しめの口調で言った。

「なんでですか!こんなに可愛いのに!」

「可愛いけど、飼わないの」

「なんで!」

信じられない、と言わんばかりの怖い顔を僕に向けるレイ。

「僕は今、高校生で、アパートで一人暮らししてるの。犬を飼う余裕はないの」

するとレイはきょとんとした顔でこんなことを言ってのけた。

「でも、椎は今一人じゃないですよ?私と暮らしているじゃないですか」

僕は頭を抱えた。そういう問題じゃない。

「とにかく、犬は飼わないから」

「ええ!?」

レイは僕を何とか説得しようと縋り付いてきた。

「あんなに可愛いんですよ?なんで飼わないんですか?」


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