メリー*メリー
「次はこっち、こっちです!」

「ちょっと、レイ! 待って!」

喫茶店を出てからのレイのテンションはとても高かった。

たくさんの人の中、初めて街を散策するということで、とても興奮しているらしいレイは高鳴る胸を抑えられないと言った様子で駅へと続くアーケードを走るように進んでいく。

そういう僕はそんな暴走しがちなレイを止める係。

思わずため息を吐きたくもなる役回りだけど、あまりにもレイが楽しそうな顔をしているので僕まで楽しい気持ちになってきて、案外嫌ではないかもしれないなんて思う。

今日は12月23日。

本当ならクリスマスやクリスマスイブにレイを連れ出してあげたかった。

でもそんな日はこの駅前はすごい人でごった返すだろうことが簡単に想像できる。

クリスマスでも、クリスマスイブでもなく、22日より前だとクリスマス感が半減する。

だから今日を選んだ。

人混みが得意でない僕が精一杯、レイにクリスマスを楽しんでほしいと思ったから。

僕の数メートル先を歩きながら、レイは時々僕を振り返って満面の笑顔で手を振る。

まるで子供だ。そんなことを思いながら僕も手を振り返しつつ、見失わないようにレイの姿をよく見ながらその後を歩く。

けれど、どんどんレイとの距離が遠くなり、僕とレイの間にたくさんの人が入り込んでいく。

レイの姿が人混みにかき消されて見えなくなっていく。

「レイ、ちょっと待って!」

僕は少し焦りながらレイの名前を呼ぶ。

このままじゃ、まずい。レイが、迷子になってしまう。

遊園地やショッピングモールの中で迷子になるならまだましだ。

エリアを出ていなければ、館内放送や園内放送で迷子のお知らせをしてもらえる。

けれど、ここにはエリアなんて存在しない。

レイはケータイを持っていないのだ。ここで迷子になれば、レイを探し出す手段がない。

「レイ!」

人混みの中に消えて行きそうになるレイに必死に呼びかける。

けれどその声すら人混みにかき消されて。

「レイ! 待って! レイ!」

人混みをかきわけるようにしてレイを探す。
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