メリー*メリー
八百屋、魚屋、花屋、骨董店。アーケードに立ち並ぶ店を横目に見つつ、駅へと足を進める。

「何か情報が手に入るといいね」

紗由の言葉に僕は頷いた。

その時だった。

「あの、困るんですけど!」

小さな、小さな声が聞こえた。

ぴたりと足が止まる。

「椎くん?」

紗由が不思議そうな顔をする。

「どうした?」

先頭を歩いていたユズが振り返る。

「この声…」

聞いたことのある、声だった。

「こっちだ!」

店と店との間、裏道を縫うようにずんずんと進む。

「どうしたんだよ、椎!」

そんな僕を追いかけるユズの焦り声が聞こえる。

「こっちにいるんだ!」

あの時かすかに聞こえた鈴のような声は、レイの声だったと思うから。


「困ります!」

鈴のような声は、いつもより尖って聞こえる。

「えぇ~? いーじゃん」

…知らない声。誰だ、このうっとうしい話し方をする男性は。

しかも、レイ、困ってるって言った。それに、少し怒っているようだ。

これは、まずいかもしれない。

「椎、急ぐぞ!」

「あぁ!」

僕らは走り出した。

走るたびに、聞こえてくる声は大きくなる。

「一緒にあそぼうって」

「だから、嫌だって言ってるじゃないですか!」

路地を抜けたところには空き地があり、そこにレイともう2人の20代らしき男性がいた。

男性のうちの1人がレイの細い腕を掴んでいた。

「レイ!」

僕が叫んで駆け寄ると、レイは驚いたような、けれど安心したような表情をして「椎」と僕の名前を呼んだ。

「この子を掴んでいる手、離してくれませんか」

「あぁ?んだ、テメェ」

男性は僕にひどく怖い顔をして近寄る。

「この子の保護者です」

僕は目を逸らさずに真っ直ぐ言った。

「保護者…」

レイは少し不服そうに小声で呟いたが、僕は何も間違ったことは言っていない。

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