メリー*メリー
レイのいる毎日はドタバタだ。

落ち着きなんてなくて、騒がしくてしかたない。

でも、それでも、楽しいんだ、やさしいんだ、この日々が。

泣けるほど、やさしいんだ、あたたかいんだ。

『9、8、7、6…』

このやさしい日々を、あたたかな日々を、僕は失いたくない。もう、失いたくないんだ。なんて考えてしまうくらいに、僕はこの生活を気に入っている。

僕が新しく始まる年に願うのは、ただひとつ。



ずっとずっと、この日々が続きますように。



『3、2、1、新年あけましておめでとうございまーす!』

テレビの中のアーティストやアナウンサーは、大きな声で高らかに新しい年の始まりを告げた。

新年になる瞬間を、僕はまた今年も今までと同じようにひとりで迎えた。

けれど今までと違うのは、一緒に過ごすひとがいるというところ。

隣で眠るレイは今も穏やかな顔をして夢の中だ。

起きたらレイはきっと怖い顔をして『なんで新年が明ける時に起こしてくれなかったんですか!』と怒るんだろうななんて考えると少し笑えた。

「明けましておめでとう、レイ」

聞こえるわけないけど、そっと小さな声で呟いた。

「今年もよろしくね」

するとレイがふにっと幸せそうな顔をして笑った。

「…し…い…」

…ほんと、なんなの、このひと。

僕は目を見開いたまま硬直していた。

「心臓に悪いよ」

寧ろ僕の心臓を、寿命を、縮めようとしてるのか。悪魔か?いわゆる天使の皮をかぶった悪魔なのか?なんて焦りすぎてバカな疑問が頭を過った。

しかしこの猪突猛進型のおとぼけ妖精がそんな高度な技を習得しているはずがないとすぐに納得して心を落ち着かせた。このひとは素だ。

「余計に性質(たち)悪いよ」

なんて皮肉っても反論も何も、眠っている彼女からは微笑み以外何一つ帰ってこない。

「まぁ、いいや」

ベッドに行こうかなと一瞬考えたけど、レイの寝顔を見ているとそんな考えはどこかにすっ飛んでいった。

「寝よう」

レイと同じようにこたつに潜り込んで、僕も眠りに落ちた。

「おやすみなさい」

返ってきたのは微かに聞こえる穏やかな寝息。

…悪くないかも。

そんなことを思いながら1人きりじゃない年越しの幸せを感じながら眠りについた。
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