メリー*メリー
「お、お待たせしました」
しばらくして玄関先に現れたレイは息を切らしていた。
「どうしたの、あんなに走り回って」
「いえ、何も。準備してただけです」
レイは息を整えながらそう言った。
紗由の家を経由して初詣に行くというだけのことなのにどうしてそんなに走り回るのか謎だけど、これ以上時間を引き延ばすわけにはいかな
「もう出発していい?」
「はい!」
そして僕らは紗由の家を目指した。
今日も今日とて、寒い。
飽きるくらいに、寒い。
けれど日差しが少しだけ暖かい。そんな気がする。
毎年思うことだけど、元日の日は天気が穏やかで、なんだか懐かしいような心地がするんだ。
「いい天気ですね~」
隣を歩くレイはきょろきょろ辺りを楽しそうに見渡している。
「そうだね」
そんな返事をしながらまだまだ寒い町を歩く。
道の端には雪が白く残っていて、余計寒く感じる。
日差しの暖かさも雪を溶かすほどではないらしい。
「わあ…」
レイは突然声をあげた。
それはとても小さいけれど、確かな羨望の色をしていた。
どうしたの、と声をかけるよりも先に気づいた。
「ああ、なるほどね」
レイの視線の先にあったもの、それは。
「素敵ですね」
綺麗な着物を美しく着飾りメイクも施されておめかしをした、レイと同じくらいの女の子の姿だった。
「レイも着たいの?」
そう訪ねるけどレイは首を縦にも横にも振らないで、ただただ綺麗な姿の女の子を見ていた。
けれどその目には煌びやかに、華やかに、その姿が映っている。
「さぁ、行こうか」
レイは頷いて歩を進めた。
…きっと、レイは着物を着てみたいんだろうと思う。
着物は特別な衣装。それもとても素敵な衣装だ。
いつもの自分とは別の自分になれる。
自分を輝かせてくれるもの、美しく見せてくれるもの。
そんな衣装を着てみたいと、女の子なら思うのが普通なのだろう。
言わないけれど、きっとレイもそう思ってる。
できることなら叶えてあげたいけれど。
でも、僕には叶えてあげられない。
不甲斐ないな。情けないな。
僕は溜め息を吐いた。
僕はたったひとりの女の子の、たったひとつの小さな夢すら叶えてやれない。