メリー*メリー
2度小さく礼をして、カランと鈴を鳴らす。

そして2回手を叩いて、手を合わせてお辞儀をした。

昨年は平凡な幸せをありがとうございました。

そして今年は。

今年、願いたいことは。


『椎!』


ただ、僕は。

レイの笑顔を、レイのそばで見ていたい。

朝起きて、レイにおはようと挨拶をして、一緒に朝ごはんを食べて、レイに見送られて学校に行って、おかえりなさいと迎えられて、一緒に晩ご飯を食べて、おやすみと言い合って、眠る。

そんなやさしい日々が、

そんなあたたかい日々が、

こんな些細な幸せが、

これからも、ずっと


ずっと、続きますように。


それだけを祈って顔を上げると、レイも祈り終えたようだった。

それから僕らはゆっくりと境内を歩きながら少し話をした。

「レイ、レイは何を祈ったの?」

「え、私ですか?」

レイは驚いたような顔をした。

「気になりますか?」

ニイッと悪戯っ子のような笑顔だ。

まるで紗由にそっくりだ。

「そういう椎は何を祈ったんですか?」

僕は言葉を詰まらせた。

レイとの日々が続きますようにと祈ったなんて、そんなこと、口が裂けても言えない。そりゃ口が裂けたら言えないけれど。

顔から火が出る。火が出てしまう。

もうそのくらい、なんといえばいいのかよく分からないくらい恥ずかしさの波が押し寄せてきて、もうとても言えないのだ。

「ないしょだよ」

僕は平静を装ってそう言った。

「椎のケチー」とレイは口を尖らせる。

誰のせいで、と思ったけれど、「そういうレイは何を祈ったのさ」と尋ね返した。

「えー、秘密です」

レイは口元に人差し指を当てて、ニコッと笑った。

「なに、それ」

「いた!」

右の人差し指で額を押した。

「何するんですか!」

案の定レイは怒っている。

「もう、行くよ」

僕はレイの手を取って歩き出した。

隣では「何なんですか!」とレイがまだ怒っている。

けれど、少しは僕の気持ちを察してくれないか。

いつもよりも少し綺麗で大人っぽいレイ。

人差し指を唇に当てた、艶っぽい微笑み。

どきり、どきりとこんなにも心臓が痛いのに。


「あ、あれ!」

レイが指さした方向にあったのは、おみくじがたくさん結ばれて白くなった大木の枝だった。

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