メリー*メリー
「おみくじ、なんて書いてあったの?」

僕がそう話題を転換させると、レイは「見るの忘れてました」と言っておみくじの中身を見た。

僕も見たけれど、とくに気になることは書いていなかった。

運勢は中吉。まあまあ、いい方なのかもしれない。

健康、金運については気をつけろ、勉学については頑張れ、というような内容が書かれていた。

ただひとつ気になったのは、恋愛のところだった。

「椎、これ、どういう意味なんでしょう?」

引いたおみくじを読んでいたレイが話しかけてきた。

何が書かれているのかと見れば、『恋愛:困難有り』と書かれている。

「へえ、なんか、大変そうだね」

僕が笑顔でそう話しかけると、レイは大きく溜息を吐いた。

「え、何、どうしたの、落ち込んでるの?」

尋ねるけれど、レイは何も言わない。

「レイって、好きな人とかいるの?」

質問を変えると、レイはびくっと肩をあげて、すぐに「違います」と反論した。

顔を真っ赤にしながら。

「へえ、じゃあ落ち込む必要ないじゃん」

僕がそう言えば、レイは何かを言いかけて、けれど何も言わなかった。

「椎は、何て書いてあったんですか?」

レイが尋ねるけど、特に面白いことが書いてなかったと答えた。

誰かに言うほどの特別なことや変わったことは、何も書かれていなかったから。


おみくじを木の枝に結ぶかとレイに尋ねるとレイは首を横に振った。

「大事なものですから」

そして大切そうにおみくじを握りしめていた。

「そ。じゃあ、帰ろうか」

僕はレイの手を握って家路についた。

レイと繋がってる手と反対の手はポケットの中でおみくじを握りしめていた。


『あの神社のおみくじ、すごく当たるらしいよ』


紗由の言葉とおみくじに書かれていた言葉が繰り返し頭の中で反響する。

…やめてくれ。

もう、僕から奪わないでくれ。

さっき、祈ったばかりなのに。


「椎?」

その声ではっと我に返ると、レイが心配そうに僕を見ていた。

「どうしましたか?」

「…ううん、何でもないよ」

そう、何でもないよ。

レイと僕に言い聞かせるように言った。

そして同時に心配するようなことじゃないと思いこもうとした。

誰かに言うほど特別なことや変わったことは何も書かれていないこのおみくじの中で、唯一気がかりになるような、この言葉を。



『恋愛:大切な人がいなくなる』


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