メリー*メリー
ぽつり、ぽつり
朝、目覚まし時計が鳴るよりも早く目が覚めた。
締めきったカーテンの隙間から朝陽がこぼれる。
ひとつあくびをしてベッドから降りて、カーテンを開けた。
黄色い柔らかな日が射しこんで眩しい。
元日、レイと一緒に初詣に行ってから、何日か経った。
あれから僕の心には黒いモヤモヤした得体の知れない感情が渦巻いているようで、どうにも今日の天気みたいには晴れない。
僕はしばらく窓の外の眩しい景色を眺めていた。
…また、この日が来た。
1年でいちばん心が苦しくなる日だ。
ずん、と心が重くなっていたときだった。
突然、ガチャリとドアが開く音が聞こえて振り返れば、パジャマを着たレイが目をこすりながら立っていた。
「おはようございます…」
ふわあ、とまだ眠たいのか大きなあくびをしている。
「…おはよう、レイ」
僕は少し笑いながら挨拶をした。
レイはまた大きなあくびをしている。
そのゆるさがおかしくて笑えてしまった。
「さあ、朝ごはんにしようか」
朝ごはんの単語を聞いた途端、レイの目が冴えていくのが分かった。
ほんと、素直で分かりやすい。
可愛いな、ほんと。
心がふわっと暖かくなるけれど、同時に得体の知れない黒い感情がぶわりと渦巻くのを感じた。
…ああ、嫌だ。
醜くて、どうしようもない。
そういうことに思いを馳せたって、どうしようもないことくらい分かっているのに。
「椎?」
考え込んだまま何も行動を移さない僕に首を傾げるレイ。
「ごめん、ごめん。何でもないよ。今朝ごはんの準備するから。それよりレイも着替えてきなよ」
すると、はーい、と間延びした返事が返ってきた。
ほんと、どこまでもゆるいな。人の気持ちも知らないで。
そんな考えがちらりと過った。
けれど、レイはレイのまま、このままでいてほしいし、何より僕の悩みはレイには関係のないことだと思い直して、僕は着替えてキッチンに向かった。