メリー*メリー
「なに?」

どうしたの、と振り返って声をかける。

「いえ、あの、どうして制服なんて着ているんですか?」

学校でも行くんですか、という質問に、僕は首を横に振って「違うよ」と言った。

「じゃあ、なんで…」

「ちょっとね」

僕は笑って誤魔化した。

「それよりどうしたの?何か僕に用事でもあるんじゃないの?」

話を逸らせば、レイはハッとしたような顔をした。用件を思い出したようだ。

「椎は何時に家を出るつもりなんですか?」

そうだな、と僕は考え込むようなポーズをしながら時計を見た。

「11時半ごろに出発する電車があるんだ。それに乗ろうと思うから、まあ、徒歩での移動も考えて11時くらいかな」

するとレイはひとつ質問をした。

「あの、デンシャって何ですか!?」

その発言で僕は思い出した。

単純に見えて、実は複雑で、奇奇怪怪な、この2人暮らしのことを。

「うん、まあ、そのうち分かるよ」

僕は溜息を吐いた。

経験上、レイは知らないものについての説明をとても聞きたがるのだ。そして説明するのは非常に面倒くさい。

百聞は一見にしかず、という言葉があるが、レイの場合は100個の質問どころかそれ以上のしつこく面倒くさい質問をしてくるので、自分の目で見てもらった方が理解も早いし説明しなくていいので一石二鳥だ。

そして時刻は11時。出発の時間になった。


しかし。


「レイ、まだー?」

「あとちょっとですー!」

レイはどたばたと家の中を走り回っている。

「どうしてあんなに時間があったのに今慌てて準備してるの!」

「怒られても知らないですー!女の子なので!」

どうして持っていく荷物もないのに、そんなに準備に手間取っているんだ。僕にはその理由が到底理解できない。

それにその理由が「女の子なので!」なんて言われてしまったらもう、理解するのも諦めようかと思う。はあ、と溜息を吐いた。


「お待たせしました!」

レイが玄関を出たのは、10時10分だった。

「もう!レイが出発するの遅くなったから走らないといけなくなったじゃん!」

僕らは後れを取り戻すため走って駅に向かっていた。

「なんで走るんですか?」

のんきなおとぼけは走りながら僕に問う。
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