メリー*メリー
「時間に遅れるからでしょーが!」

「ええ!それ私のせいなんですか!?」

「それ以外に何があると思うの!?もう、いいから急ぐよ!」

「待ってください!」

待ってくれと言われたって、今回ばかりは待てない。

ここは都会の街じゃない。

おまけに都会に向かう電車ではなく、さらに田舎へ、山奥へと向かう路線を走る電車に乗るんだ。

この1本を逃せば、次は14時まで待たなければならない。そんなのごめんだ。

それから2つほど信号にひっかかったけれど、それでも駅舎が見えてきた時、時刻は出発の5分前だった。

「**駅まで、大人1枚と子ども1枚ください」

僕は息を切らしながら駅員さんに頼んだ。

いままで小さなころから何度となく乗ってきた電車だ。切符の値段は子供も大人も両方覚えてしまった。

「はい、**駅までの切符ね」

のんびりしている穏やかな駅員さんから2枚の切符を受け取る。

「ありがとうございます」

パタパタと足音が聞こえて振り返ると、そこには息を切らしたレイがいた。

「し、椎、まっ、待ってください…!」

「レイ、良かった。これ持って。ほら、こっち行くよ」

「え、ちょ、待ってくださっ…」

「待てない。もうちょっと頑張って」

僕はレイを叱咤激励しつつ、改札口を抜けた。

レイは何をどうしたらよいか分からない様子で困った顔をしながら切れた息を整えていた。

「それ、レイが手に持ってるその切符を駅員さんに渡して」

レイは僕の言葉でようやく、おずおずと駅員さんに切符を手渡した。

「はい、どうぞ」

穏やかな優しい笑顔が特徴の駅員さんはその笑顔をレイに向けてくれた。

「レイ、こっち!」

改札口を無事に抜けたレイと共に、目的の電車がいるホームへと向かった。

「椎、どこに行くんですか!?」

僕の後ろをついてくるレイはあたりをキョロキョロ見渡しながら僕を見失わないように必死に追いかけている。

「こっち。4番ホームだから」

「よんばんほーむ?なんですかそれ、どこですか!?」

「いいから、僕についてきて」

腕時計を見た。出発まであと2分。間に合えばいいけど。

僕はレイの腕を掴んで階段を下りる。

「椎!?」

「時間がないんだ、早く!」

4番ホームに降り立つと、そこにはすでに電車が待機していた。
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