メリー*メリー
コートのポケットに手を突っ込んで、口元をマフラーで隠しながら、人通りのない帰り道を歩く。頭では紗由の言葉を反芻していた。


『椎くんって、本当にその花が好きなんだね』


__好き、か。

その言葉は正しくて、けれど正しくはない。

僕にとってあの花が特別な理由は、好きだからではない。

そんなに優しくなんてない。

もっと苦しくて、悲しくて。

忘れられないほどに、脳裏に焼き付いている。


『この花が好きなの』


花が舞う寒空の下、微笑んだあのひとの横顔。

その儚さは、今も鮮明に。


ビュウ、と冷たい風が頬をかすめる。

思わず立ち止まって見上げると、今にも雪が降ってきそうな灰色の冬の空が広がっていた。


こんな寒くて心まで冷えてしまいそうな曇り空の日は、いつもあのひとを思い出してしまう。


あなたはきっと、こんなどうしようもなくあなたを思い返してしまう僕のことを、笑うのでしょう。


どんなに哀しんでも、どんなに思い返しても、意味がない。


もう2度と戻らないのに、と。



ビュウ、と冷たい風が吹き抜ける。


寒い、寒い。早く家に帰って、温かいココアでも飲もう。

そう思って一歩踏み出そうとした時だった。




ひらり、ひらり。



花びらのように、雪が舞った。



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