メリー*メリー
ドアの横のボタンを押して扉をあけて入る。

中には2人のお年寄りだけで、席がガラガラに空いていた。

ほっとした瞬間、電車のドアは閉まり動き出した。

慌てるレイを席に座らせ、僕もその横に座った。

「これ、何ですか!?」

レイは他の人のことも気にしているのか、少し小さな声で質問した。

「これが電車」

「デンシャ」

「感じでは電気の電と車という字を使う」

「へえ」

「…分かってないでしょ」

「分かってますよ!」

くだらない話をしていると、レイはふいに車窓を夢中になって眺め始めた。

移りゆく車窓からは様々なものが見える。

どこまでも穏やかな田園風景、小さく見える家々、そして山の青々とした木々。

どこでも見れる、否かの景色だ。

「すごいですね」

レイはじっと見ていた。

その一所懸命な姿が面白くて、つい笑ってしまいそうになった。

**駅へ向かう電車に乗って、こんなに明るくいられるのは初めてかもしれないな。

レイのはしゃぐ顔をみながら僕はそんなことを考えていた。

僕たちの最寄り駅から5つ目の駅が僕らの目的地の最寄り駅だ。

「**駅、**駅。お降りの方は…」

車掌さんの特徴的なアナウンスを聞きながら電車を降りる。

ホームに降り立ち、電車が出発するのを見送ると、レイは「もうちょっと乗っていたかったな」と独り言を言った。

「乗っててもいいけど、レイは逮捕されるよ」

「逮捕!?」

「そりゃそうでしょ。レイはここから先の乗車料金を払えないんだから」

レイには自由に使えるお金を与えていない。

僕だって毎日を生きるのに精いっぱいだし、レイにお金を渡したところでそれを使うとは考えられないからだ。

「お金ならありますよ!」

自信満々にレイが言う。

「僕から盗んだの?」

「違いますよ!」

疑いの目で見れば、レイは全力で否定した。
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