メリー*メリー
「見ててくださいよ!」

レイは両手を出して、空気を掬うようなポーズをした。

すると突然レイの両手に雪が降って、両手からこぼれおちるほどに積もった。

僕がそれを呆然と見ていると、レイは微笑みながら「この雪の中に手を入れてみてください」と言った。

「え?」

「雪が溶けちゃいますから!」

早く、と急かされて、その雪の中に手を入れる。

ひんやりと冷たい感覚が指に纏わりつく。

冷たくて凍えそうな指先に、一際冷たい感覚が伝わった。

思わず手をひっこめた。

「何、なんかすごく冷たいのがあったんだけど」

僕が慌ててレイに尋ねると、レイは可笑しそうに笑っていた。

「それです、それを取ってください」

僕は少しためらいながらもまた雪の中に手を伸ばした。

一際冷たい感覚を感じ取って思わず手をひっこめたくなるけれど、その気持ちを振り切って冷たいそれを掴んで雪の中から引っ張り出した。

「なに、これ」

それは確かに氷だった。

けれど、その形はすごく変わっていた。

「お金です!」

レイは得意げにそう言う。

確かにレイの言う通り、それはお金の形をしていた。

100円玉の形だ。模様まで細かく再現されている。

だけど。

「これはお金にはならないよ?」

「知ってますよ、だからこれに色を塗って…」

「いや、犯罪だよ?捕まるよ?逮捕されるよ?」

レイは目を見開いていた。

この子、本当にあほだ。

がっくりうなだれるレイの肩に手を置いて、「さ、行こう」と僕は笑った。

あほなレイに呆れるけど、それでも愛おしく思えた。

そして2人で改札口を抜けて駅を出た。


出た瞬間、目に入るさびれた商店街。

駅前なのに人通りのない道路。

そしてその奥に広がる寒々しく青い山。

空だけは晴れているけれど、太陽に雲がかかって、少し暗い。

うっとうしくなるほど、暗い町。

ビュウ、と無慈悲な冷たい風が吹き抜けていく。


僕は目を閉じて息を吸い込んだ。

この町の空気が、匂いが、体の中を駆け抜けていく。

うっとうしくなるほど嫌いで、悲しくて、苦しくて、それでも愛しくてたまらない。


…ああ、またやってきたんだ。この町に。


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