メリー*メリー
「椎…」

後ろから声が聞こえてハッと振り返る。

レイが、眉をひそめてなんだか心配そうな顔をして僕の名前を呼んでいた。

「着いたのはいいんだけど。これからどうしよっか。お腹減ってない?」

時刻は12時ごろ。

ちょうどお昼の時間だ。

レイは笑っていった。

「おなかは…」

ぐう、と響いたお腹の音。

レイは俯いてお腹を押さえた。

僕は吹き出してしまった。

「なっ、なにをわらっているんですか!」

よほど恥ずかしかったのか、レイは顔を真っ赤にしながら少し涙目で反論した。

「椎!」

笑い続けていると、レイは更に怒った。

「いや、なんでも」

「何でもないならそんなに笑わないでしょ!」

レイのまっとうな反論に、それもそうだな、と思った。

「いや、本当に素直だなって思って」

それから僕はレイの頭を撫でた。

「…子供扱いですか」

「そういうわけじゃないよ」

レイはムスッとしている。怒っているらしい。

「でも、そういうところが可愛いと思うよ」

ハッとしたようにレイは顔を上げた。

「ごはん、食べに行こうよ。僕もお腹減ったんだ」

レイはそれまでの表情と打って変わって、パァッと明るい顔になった。

「はい!」

その元気な返事に、僕も笑顔になっていた。

「何か食べたいものとかある?」

「いろいろ食べてみたいので、椎に任せます!」

僕に任せますって言われてもなあ。

どうしようか、と頭をかいて、あれこれ悩んだけれど、結局僕がいつも立ち寄るご飯屋さんに入った。

あまり綺麗でおしゃれな外見ではないけれど、小さくてこじんまりとしていて、お店の人と客の距離がより近くに感じられる、親しみやすい定食屋さんだ。

「こんにちは」

挨拶しながら入ると、おばちゃんが「あらあ、椎くんじゃないの」と店の奥からわざわざでてきてくれた。

「こんなに背が高くなって~」

おばちゃんは僕の肩に手を置きながら笑っていた。

「そうですか?」なんて僕も笑って見せた。

「おばちゃんもお元気そうで良かった」

するとおばちゃんは右腕をまげて「まだまだ若いからね~!」と力強く言った。

「ほんと、おばちゃんは若々しいですね」僕は笑った。
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