メリー*メリー
「ハナさん。僕、今日はお花を買いに来たんです。お花、見せてもらっていいですか?」

僕がそう言うと「もちろん」とハナさんは微笑んだ。

「今年はどんなお花がいいかしら」

ゆっくりしていってね。

ハナさんはそう言い残すと、店の奥の方のカウンターで作業を始めた。

「お花、買うんですか?」

レイが隣で不思議そうに尋ねる。

「そうだよ」

僕は尋ねながら色とりどりの花々を見つめた。

「だれかに、あげるんですか?」

「…そうだね」

じゃあ、とレイは縋り付くように尋ねる。

「じゃあ、お花を買ったら、そのお花をだれかにあげにいくんですか?」

「…そうだね」

「お花を買ったら、すぐに、ですか?」

レイは不安を目にいっぱいに映している。

…なんて目を、するの。

なんて目で、僕を見るの。

どうして、そんな目をしているの。

僕は吐き出しそうになる問を呑み込んで「そうだよ」と答えた。

「花を買ったら、会いに行くんだ」

レイは「そうですか」と答えた。

その顔は少し強張っているような色をしていたけれど、もしかしたら気のせいかもしれない。

僕はそう思って、再び花を見つめた。

バラ、カーネーション、菊。

…毎年、思うことだけど、どんな花を選んだらあのひと達は喜んでくれるだろうか。

いや、あのひとのことだ、きっとどんな花を選んでも喜んでくれると思う。

花が好きなひとだから。

きっと、花を見てにこにこ笑ってくれるだろう。

その笑顔をみて、あのひとも同じくらい嬉しく思うのだろう。

あのひと達はそういう人達だから。

「椎、悩んでいるんですか?」

レイが遠慮がちに尋ねる。

僕は頷いた。

「どれも綺麗だから、迷ってしまうんだ」

するとレイは眉を下げて「そうですか」と寂しそうな笑顔で答えた。

「どうしたの、レイ」

さすがにレイの様子がおかしいと思い、レイに尋ねる。

「え?」

「なんかあったの?様子おかしいよ」

するとレイは首を横に振った。

「そんなこと、ないです」

「そう」

それならいいんだけど、と付け加えて花を見つめた。

「あのひとが好きな花を選べばいいんじゃない?」

店の奥からハナさんの声が聞こえた。

「あのひと達にあげる花でしょう?だからあのひとが好きな花を選べばいいのよ」

パチン、パチン。

ハナさんはお花の茎を切りそろえながら言った。
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