メリー*メリー
「あのひとの、好きな花」

あのひとの好きな花は、知っている。

でも、あの花はまだ咲かない。

まだこの時期には、咲かないんだ。

その時、ぱっと目に映ったのは白百合だった。

「白百合にしようかな」

僕はその雪みたいな白を見つめながら呟いた。

「白百合か、いいね~」

ハナさんは僕の独り言に大きな声で返事した。

僕とレイはその声に驚いてびくりと肩を上げた。

「でも毎年白い花を選ぶんだね」

ハナさんは不思議そうな、でも面白そうな声でそう言った。

「あのひとが好きな花、白色の可愛い花なんです。でもまだ咲かないから、代わりにあの花と同じ白色の花にしようと思って」

へえ、とハナさんは相槌をうった。

「でも、なんだか寂しいね。白だけって」

色がなくてさあ、とハナさんは言った。

「白百合5本ください」

僕が話を切り上げるように代金を手渡すと「確かに」とハナさんは笑って言った。

「じゃあ、今準備するからちょっとの間、店の中でも見て待っててよ」

そういうが早いか、ハナさんは白百合の入ったバケツの中から白百合を5本取ると、さっさと店の奥のカウンターにある作業台で花束にしてくれた。

「お待たせしました」

僅か1分ほどでハナさんは花束をつくってくれた。

「さすがハナさん。早いですね。全然待ってないですよ」

僕がそう言うと、「そりゃあ良かった」とハナさんは笑った。

「あれ、僕が頼んだのは白百合5本だけですよね」

僕はハナさんから手渡された花束を覗きながら言った。

白百合の間にはカスミソウと薄桃のカーネーションがあった。

「ああ、それはあたしからのプレゼント」

ハナさんは笑いながら言った。

「そんな、悪いですよ」

僕はそういうけれど、ハナさんは「いいから、いいから」と全然取り合ってくれない。

「受け取ってよ。あたしからの気持ちだから」

「でも」

僕の話を遮るようにハナさんは話し始めた。

「嬉しかったんだよ」

その言葉に、僕の声は引っ込んでしまった。

「椎くんが笑ってて、嬉しかったんだよ」

そう微笑まれてしまって、僕は何も言葉にできない。

「ありがとう」

ハナさんはレイに視線を移すと微笑んだ。

レイはハッとしたように俯いていた顔を上げた。

「きっとあなたのおかげだね」

レイは訳が分からないという様子で首を傾げた。

< 67 / 95 >

この作品をシェア

pagetop