メリー*メリー
「ここだよ」
やがて到着した場所で、僕はレイにそう言った。
「ここは…」
レイは驚いて辺りを見渡している。
それもそのはず。
「墓地、ですか」
ここは、死んだ人の眠る場所。
「こ、ここに来たかったんですか?」
「うん」
「で、でも!」
僕は慌てるレイをよそに目的の場所へと足を進めた。
レイは混乱しているようで、僕の後ろを走って追いかける。
「お花、渡すんじゃなかったんですか!?」
「うん。だから渡すんだよ」
「こんなところで?」
「ここだからこそだよ」
僕は不意に足を止めてしゃがみこんだ。
目の前にあるのは、1つの石。
「ここでしか、渡せないからね」
そして僕はその石に微笑みかけた。
「ただいま、父さん、母さん」
父さんと母さんの墓石。
レイが後ろで息を飲む音が聞こえた。
「そんな顔しないでよ」
僕は思わずレイに笑いかけた。
レイが目を見開いて驚き固まっているからだ。
「椎…」
儚げに、切なげに、レイが名前を呼ぶ。
「2人にちゃんと挨拶しなきゃ」
ほら、レイも。
僕はレイを墓の前に呼んだ。
「今年も来たよ。母さんは花が好きだから、きっとどの花を選んでも喜んでくれるだろうけど、お母さんのいちばん好きな花と同じ色の花にしたんだ。
それから、カスミソウとカーネーションはハナさんがおまけでくれたんだよ」
そんなことを報告する。
本当に聞いてくれているか、分からないけど。
聞いてくれたらいいなと思って。