メリー*メリー
「あの、椎、聞いても良いですか?」

「いいよ、なにを?」

「その…ご両親は、どうして…とか、聞いても、その、いいんでしょうか…?」

レイは遠慮がちに尋ねる。

すごく気を使ってくれているんだなと分かる。

それがすごくけなげで、かわいくて、すごく、やさしいと思った。

「あの、椎…っいたっ!?」

僕はでこぴんをした。

「なにするんですか!?」

おでこを抑えながらレイは僕を見上げる。

少しうるんだ瞳が可愛らしかった。

「レイこそなんて顔をしてるの」

レイは僕の言っている意味が分からないというように首を傾げた。

「そんなに気を遣わなくていいよ。もう昔のことだから。だからそんな心配そうな顔をしないで」

そして今度はレイの両頬を左右に軽く引っ張った。

「笑ってよ。レイは笑っている方がいいから」

レイは両頬を引っ張る僕の手を抑えながら、戸惑いがちに眉を下げてニッと笑った。

「レイは笑ってて」

僕はその笑顔を見ながら微笑んだ。

レイには笑っていてほしい。

どんなときでも。


僕は空を見上げて1つ呼吸をして話を始めた。


「__今からちょうど10年前のことなんだけどね」


つまらない、僕の昔話を。



「丁度10年前の今日、父さんが交通事故で亡くなったんだ」


その瞬間、音が消えた。

呼吸の音も、風の音も、消えたように、静かになった。

最初からこんなに暗くてインパクトの大きい単語を出して、さすがに驚いたようだけど、声を出さずに聞いてくれていた。


「歩行者信号が青になって、横断歩道を歩いているときに、トラックが横から突っ込んできたんだって。

そのトラックの運転者を、すごく恨んだけど、その運転者の人もいろいろストレス抱えてたみたいでね」

家族、会社、いろんなところで過度のストレスから、寝不足をはじめ、身体にいろんな症状が出ていたんだって。

「その人のこと、すごく嫌なのに、見たくもないのに、憎いのに、なんでか、その事情を考えると、恨めなくなっちゃって」

「椎…」

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