メリー*メリー
はあ、と僕は溜息を吐いた。

少し、安心した。

どこにいったのかと思った。

もしかしたら事故にあって、怪我をしているかもしれないと思うと肝が冷えた。

でも、レイは無事だった。無事に紗由の家にいる。

レイの居場所が分かっただけで、ひどく安心した。

「良かった」

本当に、良かった。

家出した先が紗由の家で、本当に良かった。

でも、家出した理由って、何だろう?

バレンタインデーについて教えない僕のことが嫌になったから?

でも、家出したことを反省しているとも言っていた。

僕に腹を立てて家出をしたのなら、反省、しないんじゃないか?

自分は悪くないから、とレイならきっとそう思うんじゃないか?

ぐるぐると回る思考は、正解を導き出すかどうかさえ分からない。

僕は溜息をまた吐き出すと、ぼうっと天井を眺めた。

もう、思考を巡らせるのは疲れた。

「お茶にしよう」

僕はコーヒーとチョコレートで一息つくことにした。

レイのことをあれこれ考えて、疲れた。

休息の時間だ。

ゆっくりチョコレートをかみしめながら、僕は目を閉じてその甘さを感じていた。


そして時間はゆっくり過ぎて、いつの間にか時計の針は午後3時を指した。

そろそろ迎えに行こうか。

僕はよいしょ、と立ち上がって紗由の家へと向かった。





外の空気は、やはり冷たい。

赤のマフラーをぎゅっと巻き付け直して歩く。

もうずっと、ずっと、冷たい空気に占領されているような気がして、つい半年前まで暑い暑いと言って過ごしていたことさえ忘れてしまいそうになる。

遠い遠い、昔のような感覚だ。

それでもきっと、ゆっくりと、季節は過ぎている。

気づかないくらい、ゆっくりな速度で。

分からないくらい、少しずつ。

きっと、変わっていく。

いろんなものが、変わっていく。

僕はふっと視線を上にあげた。

視界に入ってきた木の枝には、赤色の膨らみがあった。

「梅の花」

紅梅の蕾。

もう、そんな季節になったのか。

僕は足を止めてじっとそれを見つめた。
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