メリー*メリー
さっき1人で歩いてきた道を、今度は2人で歩いていく。

景色は何も変わらないのに、なんだか少し暖かいような気持ちになってくる。

「レイ、紗由と何を話していたの?」

僕の少し先を行くレイに問いかける。

レイは踊るようにくるくる回っていたのをやめ、急に振り返った。

そしてニイ、と口の端を上げて、人差し指を唇にそっと当てた。

「秘密です」

その、悪戯っぽい微笑み。

不敵な笑み。


どくんと痛んだ心臓のせいで、僕は何も言えなくなって、それが悔しくて。

「痛い!」

人差し指でそのおでこを軽く突いた。

「何するんですか!」

レイは額を押さえて反論する。

「椎!」

僕はレイに何も答えずいつもより少し速度を上げて歩き出した。

…言えるわけがない、額を突いた理由なんて。

レイを相手に理由を簡単に言えるほど、僕に勇気なんてなかった。





家に帰ってからレイはキッチンに籠っている。

『キッチン、貸してください!』

家に帰った途端、レイは真剣な顔でそういうので、僕は不思議に思いながらも許可をした。

『絶対に見ないでくださいね!』

そう言われてしまって、僕はレイの様子を見ることもなく自分の部屋にいた。

とは言いつつも、気になって仕方がない。

様子を見に行こうと思って、やっぱりやめて。そんなことを何度も繰り返して。

…何がやりたいんだろう。

はぁ、溜め息を吐いた。

____ガチャン!

「うわ!」

その時、キッチンから大きな音とレイの声がした。

「レイ?」

大丈夫?

そう声をかけるけど、レイの返事はない。

…見るなと言われていたけど。

今は、もう。

その言いつけを、守っていられない。

僕はキッチンに出た。

「レイ…?」

レイは座り込んで泣いていた。
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