メリー*メリー
「さあ、できた」

オーブンから取り出したのは、ガトーショコラ。

あの後、僕とレイでつくったものだ。

「わあ…!」

レイは嬉しそうに声をあげた。

その目はまだ赤いまま。

けれど顔つきはどこかスッキリしたような印象がある。

ふんわりとキッチン全体に広がる、チョコレートの甘くやさしい香り。

レイはその香りにうっとりしながら、目を細めていた。

「冷めたら食べようか」

ケーキを覚ましている間、片づけをしたり掃除をしたり、2人でそんなことをし、終わったところで紅茶を注いだ。

「レイ、紅茶飲める?」

「砂糖とミルクがあれば…」

「子どもだね」

「子ども扱いしないでください!」

わざと僕が言うと、レイは半ギレで反論してくる。

いつから、だろうか。

レイがそばにいてくれる、そんな毎日が楽しくて、楽しくて。

この生活が、当たり前になっていた。

いつまでも、この時が続けばいいのに。

そう願わずにはいられないほどに。


「ねえ、椎」


レイが改まって僕の名前を呼んだ。

「なに、どうしたの?」

また何か頼みごとがあるのか、それとも何か相談事か?なんて考えながら軽く聞き返す。

レイは俯いて何かを迷ったまま百面相していた。

言おうとして、やっぱりやめて。

そんなことを繰り返しているようだった。

僕はそんなレイの様子が可愛くて面白くて、「言えるようになったら言えばいいよ」と笑った。

するとレイはパッと顔を上げて、覚悟を決めたような顔をしていた。

「椎に作ろうとしていたお菓子、本命のつもりだったんです」

か細い声で、そう言った。

僕の思考回路は停止した。

思考回路だけじゃない。

あまりの驚きに、身体もピタリと音を立てるようにして、僕の時が止まったような、そんな感覚がした。



「椎が好きです」



少女が内に秘めていた想いは、僕が想像していたよりもずっとずっと重くて、ずっとずっと大人びたものだった。


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