メリー*メリー
ひらり、ひらり
『椎が好きです』
まるで実ったりんごのように赤く染めた顔。
まだまだ子どもだと、少女だと思っていたのに、その顔はほんのりと乙女の色を灯していて。
まさか、こんな僕のことを好きになってくれる人がいたなんて。
それがまさか自分よりも4つは年下の女の子だったなんて。
まさかそんな女の子が雪の精だなんて。
布団にもぐっても、歩いても、何をしていたって、その声ばかりが脳内を巡っていく。
通いなれた通学路をいつもより少しゆるやかな速度で歩きながら僕はひたすら考え続けていた。
なんて答えればいいのだろう。
漠然とした問が頭の中にぽつりと生まれた。
まず、僕はレイが好きなのか?
…そりゃあ、嫌いじゃないとは思う。
嫌いな人と一緒に生活することはできないと思うから。
それに、レイがいるこの生活は結構気に入っている。
今まで僕以外誰もいなかった部屋に、レイがいる。
そりゃあ、レイはおっちょこちょいだし、どじだし、ほんと騒がしくて、落ち着きなんてまるでないけれど。
だけど、そんな生活が、楽しくて。
いつのまにか、当たり前になっているほど。
好きなんだとは思う。レイのこと。
だけど、それはどういう種類の『好き』なのか、分からなくて。
好きなのに、好きだと言っていいか分からなくて。
ひとつ解き始めたはずの問題は、いつの間にかいくつもの問題と手を結んで引き連れて僕の前に立ちはだかる。
…ああ、堂々巡りだ。
解決の糸口がどこにあるのか、僕には分からない、見えない。
分かろうとして、分かりかけて、結局何も分からない。
見ようとして、見たような気がして、結局何も見えない。
そこに糸口があった事実さえ曖昧になってしまうほどに。