メリー*メリー
ユズは「朝礼始まるから、終わったら聞く」と短く言って席に着いた。
同時に担任の先生が入ってきて朝礼が始まった。
先生が何か話している間、僕は窓の外をぼうっと窓の外を眺めていた。
…寒さのピークは過ぎたと今朝ニュースキャスターの人が言っていた。
けれど、まだ、寒い。
風はまだ、冷たい。
今日の晩ご飯は鍋にしようか、なんてぼんやり思った。
朝礼が終わると早速ユズが僕の席にやってきて「で、何があったんだよ?」と言ってきた。
辺りを見渡せば、たくさんのクラスメイト。
僕達のことを誰も見ていないとは分かっているけれど。
でも。
「場所を移そう」
ここで話すには、たくさんの勇気がいる。
人通りの少ない廊下に移動して、僕はユズにすべてを話した。
「へえ、レイちゃんが、ねえ」
もてるな、椎。
ユズはニヤニヤと人の悪い顔でからかう。
からかうなと怒ってもユズはさらに面白がるであろうことは火を見るより明らかだったので、僕は溜め息をはいて「違う」と言った。
「ずっと、きっとレイはユズが好きなんだろうと思ってた」
「俺?」
僕が頷くと、ユズは笑いだした。
あっはっは!と声をあげて笑う。
「何が可笑しいの?」
少し怒って尋ねると、「だってなあ」とユズは笑った
「それはねぇよ、絶対」
ユズはフー、と長い息を吐いて僕の肩に手を置いた。
「レイちゃんはずっとお前を見ていたよ。
他の誰かじゃない、椎、お前をな」
僕は目を見開いた。
『しーい!』
頭の中で、レイがこちらに振り返って笑う。
その姿は優しくて、愛しくて。
その笑顔は可愛くて、眩しくて。
だけど、同時に、儚くて。
「レイ…」
僕は胸の辺りをぎゅっと掴んだ。
心臓が痛かった。