メリー*メリー


「ただいま」

家に帰って、玄関のドアを開ける。

けれどいつも聞こえてくるはずの声は聞こえて来ない。

「レイ?」

僕は靴を脱ぎながら、ゆっくり一歩一歩確かめるように足を進める。

なんだか、胸騒ぎがする。

嫌な予感が、する。

「レイ、レイ!」

台所を通りすぎ、リビングへ続くドアを開けたら。

「れ、い」

そこにはちゃんとレイがいた。

白いワンピースに白いポンチョを羽織って、正座で佇んでいる。

そして黙ったまま僕を見上げていた。

「どうしたの?具合が悪いの?」

慌てて駆け寄るけど、レイは首を横に振った。

「どうしたのさ、レイ?」

その手を握ろうとした。

けれど僕の手はレイの手をするりとすり抜けた。

「レイ…?」

レイは申し訳ないと言いたそうに、眉を潜めて辛そうな顔をしていた。

「レイ、どういうこと?黙ってないで、教えて。お願い」

レイは苦しそうに俯いた。

「…椎、知っていました? 私がこっちの世界に来て、もう4ヶ月が経ってるんです」

時の流れって早いですね。

レイは小さく笑った。

笑ったけど、でも辛そうに笑うから、僕まで辛くなる。

「…言いましたよね、初めて会った時に、私は雪の精だって」

「それは、聞いたけど」

「これも言いましたよね。どうしても来たくてここに来たんだって」

「それも、聞いたけど」

「でも、その理由は言ってなかったですよね?」

僕は首を横に振った。

「どうしても来たかったって…」


「はい。どうしても来たかったからです。

会いたい人が、いましたから」


レイは俯いたまま話を始めた。


「むこうの世界で、仲良くなったある人が、ある男の子の話をずっとしてくれました。

誰より優しくて、誰より強くて、だけどちょっぴり放っておけない男の子。

私はその人が気になって、気になって、会いたくなりました。

会いたくて、会いたくて、いてもたってもいられず、みんなに大反対されながら、非正規ルートでこっちに来たんです」

本当は、正規ルートで来たかったんですけどね、とレイは小さく笑って付け加えた。
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