メリー*メリー
「…会いたかった人って…」

僕の問いに、レイは頷いた。

「そうです。椎に会いたくて来ました」

目を見開いた。

レイがこっちに来た理由が、まさかそんな理由だったなんて、思いもしなかった。

それに、そんな理由でこっちに来た、なんて。

「会いたかった人に会えて、4ヶ月も一緒に過ごせて、幸せすぎるくらい幸せでした。

多分、この人生でいちばん幸せでした」

それからレイは俯いたまま立ち上がってお辞儀した。


「たくさんお世話になりました。

ありがとうございました」


深々と頭を下げるその姿に、僕は苦しくなった。


「ねえ、『幸せでした』って、なに? 『お世話になりました』って、なに?」


絞り出した声は震えていた。

レイは黙ったまま俯いていた。


「なんで全部過去形なの?」


僕はレイに詰め寄った。

息が苦しいくらい胸が痛かった。


「ねえ、レイ!」


レイはびくりと肩を震わせて顔を上げた。


「どうして、泣いてるの?」


可愛らしく整ったその顔はたくさん涙で濡れていた。


レイはまた一筋溢れた涙を手の甲で拭うと、ニッと笑って見せた。


「さよならです。椎」


それは泣くのを抑え込んで笑った、見ていてとても苦しくなる笑顔だった。


「え?」

僕はレイの言葉をうまく理解することができなかった。


「それ、どういう意味?」


理解できなかったんじゃない。

したくなかった。

理解してしまうのが、どうしようもなく怖かった。

さよならの言葉の意味を知ることが、どうしようもなく怖かった。
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