メリー*メリー
「言いましたよね、非正規ルートで来たって」

レイは静かに言った。

「非正規ルートは、正規ルートに比べてとても不安定なんです。ルート自体も不安定だし、そのルートを通過する存在自体も脆くなる」

透ける自分の手をレイは辛そうに見つめる。

「私はこのまま、消えてしまいます。
身体の末端からゆっくり溶けるように、空気に馴染むように消えて、最後には、無くなってしまう」

「なくなるなんて、そんな、どうして」

僕は言葉を失った。

「私達雪の精は、雪とおんなじです。雪のある時期には存在できるけど、雪のない時期には存在することはできない。正規ルートを通るときに門番さんから保護してくれる衣装を借りなければ、身体は暑さに負けて消えてなくなってしまいます」

淡々と事実を述べるように、レイは言葉を紡いでいく。

「そんな、待ってよ」

焦っているのは、僕だった。

「消えたら、どうなるの。レイは、元の世界に戻れるの?」

レイは首を横に振った。

「私は消えてなくなります。言葉の通りに」

「そんな…何か、方法はないの?消えてなくならないで済む方法は」

焦って尋ねる僕に、レイは穏やかな顔をして微笑んだ。

「椎がそう思ってくれることがすごく嬉しいです」

その言葉の意味はきっと、方法はないということ。

受け入れるしかないということ。

そんなの、嫌だ。

絶対嫌だ。

「僕は嫌だ」

拳を堅く握りしめた。

「このままレイをなくしてしまうのなんて、嫌だ。絶対、嫌だ」

「椎…私も嫌です。でも、回避できる方法なんてないんです」

聞いたこともない、とレイは言う。

「でも、諦めたくない!」

僕は強く言った。

「言ったよね、レイ。僕はレイをこのままなくしたくないんだって、絶対嫌だって、言ったよね。

僕は諦めない。諦めたくない。このままレイをなくさない。絶対」

「椎…」

なくさない。

レイを、なくしたくない。

でも、何をどうすればいいのかなんてさっぱり分からない。

どうすればいい。

どうしたらいい。

必死に考えるけど、まるで解決策はその糸口さえも見つからない。

どうしたらいい。

どうしたら、レイをなくさずに済む。

一体、どうすれば。

「もう、いいんです」

レイは突然言った。
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