メリー*メリー
涙を流しながら「もう、椎のせいです!」と恨めしそうに言う。

「決めてたのに。覚悟してたのに。このまま消えることを、受け入れていたのに。
いなくならないでなんて、椎がそんなことを言うから、せっかく押さえていた気持ちが抑えられなくなるじゃないですか!」

「どうしてくれるんですか!」とレイは怒る。

「レイ…」

「嫌だよ。消えたくない…」

涙声が胸を痛くする。


「レイ」

顔をあげて、と僕は呟いた。

涙で濡れた顔をあげて、レイは不思議そうに僕を見る。

その小さな唇に僕のをそっと重ねた。

きっと1秒にも満たない短い時間。

それでも僕にはもっと長く感じた。

レイは驚きで固まっていた。

「いいい、今のって…?」

「キス」

「キス!?」

声がひっくり返ったレイは顔を真っ赤に染めて、両手で頬を包む。

…ほんと、いちいち反応が可愛い。

やさしくておだやかな気持ちが心に雪崩れ込む。


「レイ、好きだよ」


レイは目をまん丸にした。

「えっ、えっ!?」

驚いて手で口元を覆う。

その反応はすごく可愛くて、反動でもう一度キスしたくなって、口元を覆うその手を外そうと手を伸ばした。

レイの手は細くて少し暖かかった。

「え、あれ?」

レイと僕は目を見合わせた。

「手、触れる?」

すり抜けたはずの手が、ちゃんとレイの手を掴んでいる。

僕らはその手を見ながら唖然とした。

「え、ちょ、ちょっと待ってください!」

レイはそう言って僕の手を振り払うと、胸の前でまるで水晶を覗くようなポーズをした。

「降って」

穏やかな表情と声でそう呟くけれど、何も変化は起こらない。

「え、え、どうして!?」

レイは困惑していた。

「どうしたの?」と声をかけると、「どうしましょう、椎」と不安でいっぱいの声が返ってきた。


「能力、使えなくなっちゃいました」


「え?」

< 92 / 95 >

この作品をシェア

pagetop