メリー*メリー


翌日、休日に僕はレイを連れ出してある場所へと向かっていた。

「椎、こんな朝早くにどこに行くんですか」

寒いです、と僕のマフラーを巻きながらレイはぼやいている。

人間になったらしいレイはまだ続く冬の寒さを実感しているらしかった。

寒がるレイというのはとっても新鮮で、これはこれで面白いし、何より可愛いと思う。

「レイに見せたいものがあるんだ」

いつもの通学路を通って、たどり着いたのは。

「学校?」

僕が通う高校。

昇降口を過ぎて真っ直ぐ歩いて、何か所か曲がると、現れたのはあの花壇。

「キレイ」

レイは花壇を見ながら目を輝かせる。

駆け寄ってうっとりと見つめるレイのそばに座って「この花、知ってる?」と僕は声をかけた。

「分からないです。でも、白くてとってもキレイ」

そう言って一生懸命に花を見つめるレイを見て心は温かくなった。

__母さん、聞こえているかな。

この場所に、この場所で、咲いたんだ。

僕と母さんの最後の絆。

母さんが僕に託してくれた、最後の願い。


「この花は、スノードロップ」


僕はゆっくりと祈るようにその名前を口にした。


「花言葉は、『希望』」


スノードロップの花が咲いたことも、レイがそばにいてくれることも。

きっと全て、雪解けのキセキ。

君がいる、当たり前で当たり前じゃなくて、いちばん幸せな、キセキ。




               -fin.-
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