王道恋愛はじめませんか?
『俺も探すよ。』
「えっ――…」
柔らかな微笑みを見せたかと思うと、杉原さんは当然かのようにホール内へと足を踏み入れた。
探すって――…!
慌てて杉原さんの背中を追うように、私も先程までコンサートの熱を感じていたホール内に入る。
『…で、落とし物って何だっけ?』
「お、お守りです…。」
『どこの席?』
「えっと、2階の――」
鞄の中から取り出したライブチケットの座席番号を告げると、杉原さんは迷うことなく、誰もいない閑散としたホール内を突き進んでいく。
杉原さんの優しい人柄に触れて心の奥がきゅう、と締め付けられる感覚に陥る反面、
初対面の私に、どうしてこんなにも親切にしてくれるのかという疑問も募っていく。
『――ここか。』
階段を上がってすぐ見えた観客席の端っここそ、数十分前まで私が座っていた席だった。