王道恋愛はじめませんか?
「……嘉人、さん」
『うん、不合格。』
「えっ!?」
まさか、名前を呼んだにも変わらず不合格と告げられるとは思わなかった私は、羞恥心も吹っ飛んで顔を上げる。
見上げた先にいた杉原さんは、今まで見たことないくらい楽しげな表情をしていて――…不覚にも、ドキンと心が反応する。
『“さん”じゃなくて、せめて“くん”付けがいいな。』
「で、でも…!」
『それとも、呼び捨てにする?』
イタズラな微笑みでそう問いかける杉原さんに、心中穏やかではない私はブルブルと首を横に振った。
こんなのって…――狡い。
「嘉人、…くん?」
『――うん、ギリギリ合格かな。』
数回噛みまくった末、ようやくもらった嘉人くんからの合格に安堵した。
はあ、なんだか今日は彼にドキドキされっぱなしだ…。
そう思ってるのもつかの間。
『じゃあ、この際だから、その敬語もやめてもらおうかな。』
「えっ……」
さらに無理難題なことを口にした嘉人くんは、私の想像するよりずっと策士だった。