王道恋愛はじめませんか?
社員旅行明けの月曜日の夜。
私は、嘉人くんと待ち合わせをしている指定の場所に来ていた。
その右手には、日光で買ったたくさんのお土産が入った大きな紙袋一つと、渡せずじまいだったビーズアクセの入った小さなビニール袋が提げられている。
まだかなぁ…。
近所の公園近くで花火大会が行われている今夜は、どこへ行っても浴衣を着た人々で賑わっている。
こんな目立つところで待ち合わせなんて、大丈夫なのと嘉人くんに聞いた私だけど、電話越しの彼からむしろ人通りの多い方がバレにくいものだと教えてもらったのは昨日のこと。
それでも、目の前を横切っていく数え切れないほどの人の流れを見ていれば、その不安は大きくなっていくもの。
さっき、ちょっと仕事が長引いてるってメールも来てたしな…。
もう少し人通りの少ない所で待っていようかな、とポケットに入れていたスマホを手にして画面のロックを解除した時だった。
~♪~~♪♪
タイミングよくスマホから鳴り響いたのは、嘉人くんからの着信。
すぐに通話アイコンをタップして、スマホを左耳に当てる。
『もしもし』
「もしもし、どうしたの?」
『今、どこ?』
3日ぶりに聞く彼の声にドキドキしてしまうけど、そこは彼に悟られないようにして、私は今いる場所を彼に伝えた。
『そっか。俺もその近くにいるんだけど、想像以上の人で――あっ』
突然、話を切ってしまった彼の声につられるように、目線を周囲に集中させたとき、私と同じようにスマホを耳に当てている遠くの彼と目が合った。