王道恋愛はじめませんか?
――嘉人 Side――
いつもより話すのを早々にして、帰っていく彼女の背中を見つめるしかなかった。
俺の右手には、さっきみのりさんからもらったばかりの日光のお土産と、ビーズアクセのストラップ。
いつもだったら、なんだかんだと俺の誘い言葉に乗せられて、車に乗って家まで送ることになるのに。
今日は違った。
俺が何度言っても、彼女が引き下がることはなく、しまいには俺の言葉をブロックするように背を向けた。
それはきっと、この後も俺に仕事が残っていると知ったからだろう。
自分よりも俺の仕事を優先して、気を利かせてくれたのだと、頭では分かってはいるけれど、気持ちが追いついていかない。
どうしても、淋しさを感じてしまう。
彼女の気遣いが、逆に俺と彼女の曖昧な関係を浮き彫りにしていくのだ。
例えばみのりさんが俺の恋人だったとしたら、こんな状況に陥った時、俺はもう少し彼女を家に送ることを強く誘えたのではないか。
強く誘えたなら、みのりさんは戸惑いながらもいつものように俺の車に乗ってくれたのではないか。
そうなっていたとしたら、今、こんな気持ちにならずにすんでいたのではないか――
そんな女々しいことばかりが、俺の心の中をグルグルと回っていく。
視線を落として彼女からもらった大きな紙袋の方の淵を広げると、包装紙で包まれた縦長の箱と、他に小さなビニール袋がいくつも入っていた。
彼女の口ぶりからして、日光の土産は一つだと思い込んでいただけに驚きを隠せない。
でも、旅行先で、俺への土産を何にしようと考える彼女の悩む姿を思い浮かべては、愛しさが生まれる。
もう片方の小さな可愛らしい柄入りのビニール袋を開ければ、中にはカクレクマノミのストラップが入っていた。
なんで、カクレクマノミ?
一瞬、彼女の本心が分からなくて戸惑う俺だけど、すぐにそのストラップに愛着を持ってしまい、彼女に言った通りスマホに取り付ける。
「――頑張りますか。」
もう彼女の後ろ姿が見えなくなってしまった今、小さく気合を入れる。
愛車に乗り込みエンジンを掛けた俺は、メンバーの待つスタジオへと車を走らせた。