王道恋愛はじめませんか?
「――お待たせ…!」
家を出て、角を曲がって大通りに出れば、いつの日か私を送ってくれた場所に嘉人くんの車が停めてあった。
駆け寄って助手席に乗り込んだ私を見た嘉人くんは苦笑いを溢して言う。
『ゆっくりおいでって言ったのに。…ほら、髪が乱れてる。』
「!」
不意に嘉人くんの綺麗な指先が私の少しだけ乱れた横髪を摘まむ。
サラリ、とその横髪を直してくれるその瞬間が、スローモーションに見えて、自分の鼓動がうるさい。
「ご、ごめん…ありがと。」
『ん。』
2人きりの車内にいるからか、それともこの至近距離だからか、または私を見つめる嘉人くんの瞳が優しさに満ち溢れているせいか、
理由はいっぱいあるけど、とにかくドキドキする。
『…なんか、新鮮だね。』
「えっ…?」
いきなり嘉人くんからそんなことを言われて、私は首を傾げてしまう。
『最近はみのりさんのスーツ姿しか見てなかったから。今日の私服が、なんか新鮮。』
「!」
ああ、そうか。
そういえば、もう何回も嘉人くんと外で会ったけど、私服で会ったのは初めて出会ったあのコンサートの日だけかもしれない。
それ以外で嘉人くんと会っていたときは、いつも会社帰りでスーツだった。