王道恋愛はじめませんか?
――嘉人 Side――
目の前で、さっき俺が見つけた赤色のお守りを見つめている女の子の微笑みに、俺は見惚れてしまっていた。
さかのぼること、数分前。
コンサート終わり、シャワーをメンバーの誰よりも先に浴び終えた俺は、ゆったりと会場内の廊下を歩いていた。
その時に、角でぶつかった女の子。
それが、今目の前で安心しきった微笑みを見せている女の子だ。
廊下で逢った時の彼女は、何やらとてつもなく焦っていて、何故か警備員に追われていた。
理由を聞くと、コンサートの会場となったメインホール内に、お守りを落としたという。
普段の俺なら、そこまで聞いて、警備員にその先を任せて、自分は楽屋に戻っただろう。
俺たちのコンサートに来ていたなら、ファンの子ってことだし、ファンとの接触はプライベートでするのは良くないから。
でも、あの時の俺は、落とし物を探すために、警備員まで振り切って会場内に侵入してきた彼女のことが、何故か放っておくことができなかったんだ。
だから柄にもなく、ホール内に入れる裏口を教えて、そこで楽屋に戻ればいいのに、彼女の探し物を探すのを手伝って。
彼女と一緒にいると、俺はどこか、いつもの俺じゃなくなるような気がした。