王道恋愛はじめませんか?
『ん?』
私の視線に気づいたのか、彼もカーディガンの取れかけのボタンに気付いたようだ。
『あー、さっき結構密着されてたからな…。』
「そうなの?」
『うん、でも……気に入ってただけにちょっと残念、かな。』
まるで、もうそのカーディガンは着れない、とでも言いたげな彼の口調に、私はつい口を滑らせてしまう。
「直してあげようか?」
『え?』
「取れかけてるだけだし、もう一回付けてあげれば着れるよ。」
見たところ、そのカーディガン、質が良いものみたいだし。
何より、嘉人くんが気に入っているものならば、猶更直してあげたいと思う。
『本当?じゃあ、お願いしてもいい?』
「うん。…私の家じゃないと直せないけど、それでもいいなら。」
そう言えば、彼は『全然良い』と言って、今日のデートは私の家で過ごすことになった。