王道恋愛はじめませんか?
「――どうぞ、あがって」
カフェを出て数十分後。
私は初めて嘉人くんを家に招き入れた。
靴を脱ぐ嘉人くんの足元に新しいスリッパを置くと、律儀に彼から「ありがとう」と言われる。
『…お邪魔します。』
そう言って、スリッパを履いた彼から早速、取れかけのボタンがついているカーディガンを受け取る。
『それにしても、ビックリしたな。』
「ん?」
『まさか、あの塀の奥にあった一軒家がみのりの家だったなんて。』
リビングに続くフローリングの廊下を歩きながら嘉人くんを振り返れば、少し落ち着かなさそうな様子だった。
「驚いたでしょう?ごめんね。」
『驚いたけど、みのりが謝ることないよ。…今日は、ご両親は?』
何気なく嘉人くんの口から零れた『両親』という言葉に、ズキンと小さく胸が音を立てた。