王道恋愛はじめませんか?



賃貸マンションで一人暮らしならばこんなことは聞かれないだろうけど、私の生い立ちを知らない嘉人くんがこの一軒家に住んでいる私を見て、両親と実家暮らしだと思い込むのも、無理はない。

誰だって、こんな広い家に小娘一人が住んでいるなんて、思わないだろう。


「…いないよ。」

『?』

「亡くなってるの。」


リビングに辿り着きそう言った途端、嘉人くんはそのアーモンド形の瞳を静かに見開かせ、『…ごめん。』と至極申し訳なさ気に謝った。


「いいの、…もう、何年も前の話だし。」

『え…じゃあ、ご両親が亡くなってからずっと、ひとりで…?』

「ううん。両親が亡くなった後は、母方のお祖母ちゃんが私を引き取って面倒を見てくれたの。」


あまり自分の生い立ちを話すのが得意ではない私は、こんな暗い話は早々やめようと思って、取り合えず嘉人くんをリビングのソファに座らせた。

私はというとキッチンに向かい、2人分のお茶を入れてリビングに戻る。

ソファに座っている嘉人くんの隣に腰かけた私を、嘉人くんは真剣な瞳で見つめてくる。


『…さっきの話、もうちょっと詳しく聞いてもいい?』

「………」


嘉人くんに見つめられて、もしかして、とは思っていたけど、そうストレートに聞かれてしまうと正直、まだ戸惑う部分がある。


『あまり、無理には聞かないけど、……みのりのこと、ちゃんと知っておきたいから。』


そこまで嘉人くんに言われてしまうと、話さないわけにはいかなくなってくるじゃない、と心の中で思う。

意外と嘉人くんって策士、なのかも?



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