王道恋愛はじめませんか?



「うん。…お祖母ちゃんが亡くなったのは、あのコンサートの一週間前だったの。」

『……!』

「その頃は私…食欲も出なくて、仕事にも行けなくて、何もやる気になれなくて。今まで作り上げてきた心の支えみたいなものをすっかり失くした感じがして…このままずっと、一人で生きていかなきゃならないんだって、自分で自分を追い込んでた時期だったの。そんな時、未来――…前に、私を合コンに連れ出そうとした友人がね、“Shine”のコンサートに誘ってくれたんだ。」


あの時も、私を気遣ってくれたのはお節介な親友だったことを思い出す。

『コンサートなんて行く気がしない』と、今思えば大変失礼なことを言っていた私を、無理矢理に引き摺ってでもコンサート会場まで連れて行ってくれた未来には、とても感謝している。

未来が、あの時連れ出してくれなかったら、私は立ち直れていなかったし、何より嘉人くんという大切な人と出会えていなかったのだから。


『…そっか。』

「嘉人くんが探してくれたあのお守りはね、実は――…お祖母ちゃん手作りのお守りだったの。」

『え…手作り?』

「うん。――これだよ。」


沿派から立った私は、あれから…もう失くすことはないようにと、リビングに飾ってある家族写真の横に置くようにしていたお守りを手に取って、嘉人くんに渡す。

受け取った嘉人くんは、『…だから、こんなに使い古したような、』と漏らす。


「…これはね、私が高校受験するとき、お祖母ちゃんが合格祈願だって言って、作ってくれたものなの。これってね、不思議と効力があって、…高校も大学もこのお守りを身に着けてたら志望校に合格できたし、今の会社の入社面接の時も、このお守り持って行ったの。…そしたら、受かってて。私の中では、このお守りは私を幸せに導いてくれるお守りなんだ。」


今思えば、このお守りを失くさなければ、嘉人くんにも会えなかったと思う。

そう考えたら――あながち間違っていないのかも。

このお守りが、幸せを導いてくれるお守りっていうのも。



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