王道恋愛はじめませんか?



『さっきの本屋で、何を買ってたの?』

「えっ、」


物腰柔らかに杉原さんに問いかけられて、私はコーヒーカップの水面に映し出されていた自身の顔から椅子の上に乗せられたバッグに寄り添うように置かれている本屋のロゴが入ったビニール袋に視線を向けた。


『…あれ、聞いちゃいけなかったかな?』

「っ、い、いえ…!」


何の反応も見せなかったために、杉原さんにいらぬ誤解を与えてしまった私は、慌ててガサゴソとビニール袋から、先程購入したばかりの物を取り出した。


『……ビーズアクセ…?』

「その……新境地を開拓したくて。」

『新境地?』


キョトン、という擬態語がぴったりな表情を見せた杉原さんに、苦笑しか返せない私。

まぁ、文庫コーナーで鉢合わせしたし、普通は私が文庫本を買ってると思うよね…。


「実は…編み物が、趣味で。いつも毛糸とか使って編んでるんですけど、たまにはビーズで編んでも楽しいかなって、思いまして…」

『へぇ~…』


私のたどたどしい話を聞きながら、あまりにも杉原さんがマジマジとテーブル上に置いたままの本を見ているものだから、つい、"見てみますか?"と問いかけてしまう。

その瞬間、いつもテレビで見ていた輝かしい笑顔で頷かれては、それ以上は言葉が出ず、黙って本を差し出してしまった。



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